「プロテインを飲めば筋肉がつく」「ランナーには不要」「1日3回飲まないと意味ない」——プロテイン論争は混沌としている。論文5本で、ランナーに本当に必要なタンパク質量を割り出し、最後に “ランナーのプロテイン選び”の実装 まで具体化する。
プロテインパウダーは2,000円から1万円まで山ほどある。SNSでは「ランナーは1日2回プロテインを飲むべき」と勧められ、別の場所では「プロテインで太る」と言われる。
科学が示す結論は明確だ。1.62 g/kg/dayを超えると筋発達はサチる。“アナボリックウィンドウ”は神話に近い。持久系ランナーは1.2〜1.4 g/kgで十分。論文5本で読み解き、必要な人にだけ最適なプロテインを提案する。
- P1Morton et al. (2018) — メタ分析:1.62 g/kg/dayで筋発達はサチる
- P2Phillips & Van Loon (2011) — 持久系には1.2〜1.4 g/kgで十分
- P3Schoenfeld et al. (2013) — “アナボリックウィンドウ”は神話に近い
- P4Jäger et al. (2017) — ISSN公式:1食20〜40g×4回
- P5Williamson et al. (2019) — 持久走後の20gホエイで筋損傷低減
はじめに:なぜランナーがタンパク質の話をするのか
「ランナー = 痩せていればいい」という時代は終わった。持久系競技でも筋トレ・タンパク質補給の重要性がここ10年で論文ベースで確立してきた(マラソンランナーに筋トレは必要か?TT-2.53%の証拠 参照)。
ただし、市民ランナーが知るべきは2つ。「どれだけ摂れば足りるのか」と「いつ摂ればいいのか」。論文を読むと、世間の常識とはかなり違う答えが出てくる。
P1. 1.62 g/kg/dayで筋発達はサチる
A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults.
British Journal of Sports Medicine, 52(6), 376–384.
・1RMスクワット +2.49 kg(95%CI 0.64-4.33)
・FFM +0.30 kg(95%CI 0.09-0.52)
・筋線維CSA +310 µm²
1.62 g/kg/dayを超えるとプラトー(95%CI 1.03-2.20)。年齢で効果↓、トレーニング歴で効果↑。
タンパク質摂取量を増やすと最初は筋肉が増えるが、1.62 g/kg/dayでサチる。それ以上は無駄
プロテインメーカーやインフルエンサーは「2 g/kgが最低ライン、3 g/kgならさらに伸びる」と煽る。Mortonらが49本のRCTを統合したら、1.62 g/kg/dayが上限と判明した。70kgで113g/日が天井ライン。
重要なのは:
① これは “筋肥大” の上限。筋力(1RM)は若干違う動きをする可能性
② レジ系で激しく追い込んでいる人が対象。市民ランナーはもっと低くてもいい
③ 高齢者は閾値が上がる(タンパク利用効率が落ちるため)
著者のPhillips SMはタンパク質代謝のレジェンド。30年間この分野で研究を続け、Mortonと共著で出した結論なので、信頼性は極めて高い。
– 60kg → 97g/日
– 70kg → 113g/日
– 80kg → 130g/日
普通の食事でこの量はほぼ達成できる。例えば70kgなら:朝(卵2個+納豆=15g)、昼(鶏むね150g=33g)、夜(鮭1切れ+豆腐=30g)、ヨーグルト1個(10g)、間食(5g) = 93g。プロテインパウダー20g追加で楽勝に達成。
ここで重要なのは「2 g/kg煽り」のSNS情報を信じて高価なプロテインを過剰購入しない、ということ。私のサプリスタック9種 でも、プロテインは1〜2回/日に絞っている。
P2. 持久系には1.2〜1.4 g/kgで十分
Dietary protein for athletes: from requirements to optimum adaptation.
Journal of Sports Sciences, 29(Suppl 1), S29–S38.
・持久系:1.2〜1.4 g/kg/day
・レジ系:1.6〜2.2 g/kg/day
・混合(マラソン+筋トレ):1.4〜1.8 g/kg/day
持久系では筋損傷修復・ミトコンドリア新生・赤血球生成に必要。
① 筋損傷の修復:長距離走で微小な筋線維損傷が起きる
② ミトコンドリア新生:有酸素能力を支える細胞内エンジンの増産にタンパク質が要る
③ 赤血球生成:酸素運搬を担うヘモグロビンの材料
④ 免疫機能:長距離走後は免疫が一時的に低下、抗体生成にタンパク質要る
これらの “メンテナンス需要” を考えると、1.2〜1.4 g/kg/dayが必要。一般成人推奨量の0.8 g/kgでは足りない。
逆に、ボディビルダーのように 2 g/kg以上は持久系には不要。むしろ過剰摂取で胃腸負担・腎負担が増える。
「マラソン+筋トレ」の混合派なら1.4〜1.6 g/kg = 98〜112 g/日に増やす。70kgなら100g前後を目安に。
ホエイプロテインを毎日飲む必要はない。食事だけで達成可能。例:
– 朝:卵2個+納豆+ヨーグルト = 25g
– 昼:鶏むね150g+豆腐 = 35g
– 夜:鮭1切れ+卵 = 30g
– 間食:プロテインバー or プロテイン20g
合計 110〜130g
「食が細い人」「外食が多い人」は、間食でプロテインを1〜2杯足すと楽。私は マイプロテインのIMPACTホエイ を朝の追加とロング走後の2回使っている。
P3. “アナボリックウィンドウ”は神話に近い
The effect of protein timing on muscle strength and hypertrophy: a meta-analysis.
Journal of the International Society of Sports Nutrition, 10(1), 53.
Schoenfeldらが49のRCTを統合して見えたのは、「タイミングよりも、1日のトータル量の方が圧倒的に大事」という事実。
具体的には:
① 運動後30分以内に20g摂る
② 運動後3時間以内に20g摂る
→ 1日のトータル摂取量が同じなら、長期の筋肥大効果は統計的有意差なし。
ただし完全に “意味なし” ではない。前回の食事から時間が空いている場合(空腹時運動など)は、運動後の補給が早い方が良い。“30分ルール” は厳格に守る必要はないが、”いつかは摂る” は重要。
重要なのは「1日トータルで100g前後」を達成すること。タイミングは二の次。
このことは 家計的にもありがたい事実 だ:高価な”運動直後専用プロテイン”を買う必要はない。普通のホエイで十分。私はマイプロテインのIMPACTホエイを使っている(サプリ9種記事 参照)。
P4. 1食20〜40g × 4回が最適
International Society of Sports Nutrition Position Stand: protein and exercise.
Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14, 20.
① 1食あたり0.4 g/kg(20〜40g)を3〜4時間ごと
② 就寝前カゼイン30〜40gでMPS最大化
③ 持久系1.4〜1.6 g/kg、レジ系1.6〜2.2 g/kg
④ 質はホエイ ≥ EAA > 大豆 > その他
⑤ 過剰摂取(>3 g/kg)に害なし(健康成人)
重要な発見:
① 1食40g上限:1度に60g摂っても、20gより筋蛋白合成(MPS)が約2倍にしかならない。逆に40gを5時間後にもう1回摂れば、累積MPSは効率良く積み上がる
② 就寝前カゼイン:寝ている間も7〜9時間アミノ酸が出続けるため、夜間の筋分解を防ぐ
③ ホエイ vs カゼイン:朝・運動後はホエイ(吸収速い)、就寝前はカゼイン(吸収遅い)
④ 大豆もOK:動物性ほどではないが、ビーガンランナーには有効
科学的に見ると、1日に少しずつ何度も摂るのが最強戦略。
– 朝7:00:卵2個+納豆+ヨーグルト = 25g
– 昼12:00:鶏むね150g or 鮭+豆腐 = 35g
– 夕方17:00:プロテインバー or ホエイ20g = 20g
– 夜20:00:豆腐+卵+鶏ササミ = 25g
– 就寝前22:30:ギリシャヨーグルト1個 or カゼイン20g = 15g
合計 120g(=1.7 g/kg)。レジ系基準もカバー。
“朝・間食 → ホエイ”、”就寝前 → カゼイン” の2本柱が科学的最適。マイプロテインなら両方が手に入り、私は朝・運動後はIMPACTホエイ、夜はスローリリースカゼインを使い分けている。サプリ9種記事 で具体的な銘柄と価格を公開。
P5. 持久走後の20gホエイで筋損傷低減
The effect of dietary protein on protein metabolism and performance in endurance-trained males.
Medicine & Science in Sports & Exercise, 51(2), 352–360.
結論はシンプル:運動後20〜30gで十分。
これはP4(ISSN)の20〜40gと一致。多すぎる必要はないが、ゼロでもいけない。
持久系特有の発見として:
① 糖質+タンパク質の組み合わせ:糖質3〜4 g/kg + タンパク質0.4 g/kgでグリコーゲン回復が加速
② 必須アミノ酸(EAA)が鍵:特にロイシン2.5g以上(=ホエイ20gに含まれる)
③ レース直後だけでなく持続摂取:24時間以内に4回程度の補給が筋損傷低減に効く
運動後30〜60分以内:糖質40g+タンパク質20g
例:バナナ2本+ヨーグルト+プロテインバー / おにぎり2個+鮭+牛乳
その後3〜4時間ごとに20gずつ。
プロテインパウダー(ホエイ)は手軽で、ロイシン含有量も高いので便利。ロング走後すぐに固形物が食べられない時こそホエイ20gが活躍する。
私はロング走後にホエイ + バナナで補給することが多い。これは IOC公式Aランクのカフェイン・クレアチン と組み合わせるとさらに回復が早い。
5本の論文から見える、ランナーのタンパク質戦略
| 論点 | 科学的結論 | 強度 |
|---|---|---|
| プロテインで筋肉つく? | YES、ただし1.62 g/kgで頭打ち | ★★★ |
| ランナーに必要? | YES、1.2〜1.4 g/kg/day | ★★★ |
| 運動後30分以内が必須? | NO、神話に近い | ★★★ |
| 1食で何g? | 20〜40g、3〜4時間ごと | ★★★ |
| プロテインパウダー必須? | NO、食事で達成可能 | ★★★ |
| 就寝前のカゼインは効く? | YES、夜間の筋分解抑制 | ★★ |
| 過剰摂取は害? | 健康成人ならほぼ無害(腎正常) | ★★ |
タンパク質補給のための”プロテインスタック” — 必要な人だけ最適解を
論文5本の結論を実装する具体的なスタック。
注意:プロテインパウダーは “食事で1.4g/kgが届かない人” 向けのツール。普通の食事で達成できる人には不要。
じゃあ、サブ90狙いの市民ランナーは何を食えばいいのか
サブ90狙いランナー(70kg)の1週間タンパク質プラン:
▼ 1日トータル目標:100〜120g(1.4〜1.7 g/kg)
朝7:00(25g): 卵2個(13g)+ 納豆1パック(8g)+ ヨーグルト(4g)
昼12:00(35g): 鶏むね150g(33g)+ 豆腐1/4(2g)
間食15:00(20g): プロテインバー or ホエイ20g
夜20:00(25g): 鮭1切れ(20g)+ 卵1個(7g)
就寝前22:30(15g): ギリシャヨーグルト1個 or カゼイン20g
合計 120g(=1.7 g/kg) ✓
プロテインパウダーが必要なケース:
① 食事だけで100gが届かない(=食が細い人)
② 運動直後に固形物が無理(=胃腸が弱い人)
③ 外出先で食事が確保できない(=出張・旅行時)
④ レース後すぐにリカバリーしたい
プロテインパウダーが不要なケース:
① 食事で1.4 g/kgを達成できる人
② 体重を増やしたくない人(プロテインパウダー1杯=130〜170 kcal、年間で蓄積)
③ ホエイで胃腸が荒れる人
SNSで売られている “ランナー用プロテイン” の多くは過剰宣伝。普通の食事で十分達成できるのがランナーのタンパク質要件。
著者(70kg、ハーフ1:47→サブ90狙い)も、平日は食事のみ、週末のロング走後だけホエイ20g追加で十分機能している。
▶︎ マラソンランナーに筋トレは必要か?TT-2.53%の証拠:筋トレと併せたタンパク質要求
▶︎ 科学が認めたサプリ5選:カフェイン・クレアチン・硝酸塩のIOC公式Aランク
▶︎ お金の無駄なサプリ5選:BCAA・グルタミン・大量ビタミンC:逆に避けるべきサプリ
▶︎ 睡眠と疲労回復:7時間未満で外傷リスク1.7倍:プロテインと並ぶリカバリー要素
※ 本記事は学術論文の内容を市民ランナー向けに要約・翻訳したものです。より正確な情報は各論文原著を参照してください。
※ 著者Stuart Phillipsは複数の食品メーカーから研究費を受けています(論文中明示)。
※ 腎機能障害・痛風など特定疾患のある方は、高タンパク食について必ず主治医に相談してください。
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