レース中ジェルの正しい摂り方は?60g/h上限とマルトラCHOの真実

論文
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科学解説 論文5本で読む 2026.04.30 理系のおじさん

ジェル1個=糖質25〜30g。レース中、いつ・何個・どう摂るのが最適か?「マルトデキストリン+フルクトース2:1で90g/h」「マラソンランナーの実摂取は35g/h」——論文5本で実用戦略を組み立てる。

レース当日、エイドステーションでジェルを取って一気飲み——でもその後、お腹が痛くなったり、効いてるのかわからなくなったり。
ジェル摂取には科学的に決まった方法がある。タイミング・量・種類・組み合わせ。さらに、市民マラソンランナーの実摂取(35g/h)はガイドライン推奨(60g/h)を大きく下回っているという驚きの事実も。
論文5本で読み解く。

📑 今回扱う5本の論文
  1. P1Jeukendrup (2010) — 単一糖質はSGLT1で60g/hが上限
  2. P2Currell & Jeukendrup (2008) — マルトラCHOでTT +8%
  3. P3Jeukendrup (2014) — 運動時間別の最適摂取量ガイド
  4. P4Pfeiffer et al. (2012) — 市民マラソン実態は35g/h(推奨を大幅下回る)
  5. P5de Oliveira et al. (2014) — 持久走中のGI障害は30〜70%が経験

はじめに:なぜジェルが必要なのか

身体には筋グリコーゲン+肝グリコーゲンで合計約400〜500g(=1,600〜2,000kcal)の糖質が貯蔵されている。中強度のランニングで時速約60〜80gの糖質を消費する。つまり2〜3時間で完全枯渇する量

マラソン3時間以上、ハーフでも90分超のランナーにとって、レース中の糖質補給は“気合い”ではなく”栄養工学”の問題。論文を読むと、何を・いつ・どれだけ摂るかには明確なガイドラインがあることがわかる。

P1. 単一糖質はSGLT1で60g/hが上限

PAPER 01
糖質と運動パフォーマンス:マルチ・トランスポーター糖質の役割
Jeukendrup, A. E. (2010).
Carbohydrate and exercise performance: the role of multiple transportable carbohydrates.
Current Opinion in Clinical Nutrition and Metabolic Care, 13(4), 452–457.
DOI: 10.1097/MCO.0b013e328339de9f
背景
グルコース(=ジェル成分の主流)は腸のSGLT1トランスポーターで吸収される。このトランスポーターには飽和限界がある。
方法
既存の同位体トレーサー研究(¹³C-glucose, ¹³C-fructose)を統合し、糖質吸収・酸化の上限を測定。
結果
単一グルコースの吸収・酸化上限=60g/h(1g/min)
これにフルクトース(2:1)を加えるとGLUT5トランスポーター経由で別ルート吸収されるため、合計90g/h(1.5g/min)まで上昇。
結論
マルトデキストリン+フルクトース 2:1 が最適。これが現代スポーツドリンク・ジェルの設計原理。
+50%
マルトラCHOで上限が60→90 g/h
2つのトランスポーターを並行使用
FIGURE 1
糖質種類別の腸内吸収経路
腸管内腔(Lumen) 血流(Blood) 腸上皮細胞 SGLT1 ↑ GLUT5 ↑ Glu Glu Glu SGLT1 単一グルコース 60g/h SGLT1で飽和 Glu Glu Fru SGLT1 GLUT5 マルトラ(Glu+Fru) 90g/h 2経路の並行吸収で1.5倍

単一グルコースは1経路で60g/h上限。フルクトース併用で別経路を活用し90g/hまで吸収可能

🎓 理系のおじさんの翻訳解説
これは“なぜジェルの成分表にマルトデキストリン+果糖が並ぶのか”の答え。

腸の細胞には砂糖を吸収するゲートが2種類ある:
① SGLT1:グルコースとマルトデキストリン(=グルコース連鎖)を吸収。最大60g/hで飽和
② GLUT5:フルクトース(果糖)専用。最大30g/hで飽和

グルコース単独だと60g/h以上摂取しても、腸内に残って浸透圧で水を引き寄せ→下痢・お腹痛

そこに果糖を2:1で混ぜると、別ゲート(GLUT5)が働き出して合計90g/hまで吸収可能。これがJeukendrup革命と呼ばれる発見。

現在の高性能ジェル(Maurten、Maurten 320、SISベータフュエル等)はすべてこの原理で設計されている。
💡 市民ランナーへの意味
ジェル選びのポイント:
① 成分表の“マルトデキストリン + フルクトース(果糖)”の組み合わせを確認
② 比率が 2:1(または1:0.8)に近いものを選ぶ
③ 比率不明な国産ジェルは “ブドウ糖+果糖ぶどう糖液糖” でほぼOK
マラソン90分以上、または60g/h以上摂りたいランナーはマルトラ必須

P2. マルトラCHOでTT +8%

PAPER 02
マルチ・トランスポーター糖質摂取で持久パフォーマンスが向上
Currell, K., & Jeukendrup, A. E. (2008).
Superior endurance performance with ingestion of multiple transportable carbohydrates.
Medicine & Science in Sports & Exercise, 40(2), 275–281.
DOI: 10.1249/mss.0b013e31815adf19
背景
P1で示された “マルトラCHOの吸収性” が実際のレースパフォーマンスに転換するかを検証。
方法
トレーニング済み男性8名。120分@55%Wmaxの自転車運動の後、タイムトライアル。3条件:
① 水のみ
② グルコース単独ドリンク
③ Glu+Fruドリンク(2:1)
クロスオーバーで全員が3条件を実施。
結果
TTパフォーマンスが:
・水のみ vs Glu+Fru:+19%
・Glu単独 vs Glu+Fru:+8%
(p<0.01)
結論
マルトラCHOは単一グルコースより持久後半のTTパフォーマンスを8%向上させる。
+8%
グルコース単独 vs マルトラのTT差
2時間運動後のタイムトライアルで
🎓 理系のおじさんの翻訳解説
8%という数字は、ハーフマラソン90分換算で+7分以上に相当する。これは大きい。

ただし注意:この実験は“2時間運動後の追加TT”。マラソン後半のような状況をシミュレートしている。最初から飛ばすシングル種目では効果は小さくなる。

重要なのは:
① 後半までエネルギーが残る:糖質枯渇遅延
② 中枢神経への作用:口腔内に糖質が触れるだけでも脳が “燃料あり” と判断し、ペースを維持できる
③ 胃腸負担減:同じ糖質量でも胃に残らないため快適

特にマラソン30km以降や、ハーフ後半5kmで顕著に効く。
💡 市民ランナーへの意味
レース後半(“壁”が来やすい区間)で力が残るかどうかは、前半からのジェル摂取戦略にかかっている。

“後半きつくなったから飲む” では遅い。前半から定期的に摂取し、糖質貯蔵を維持し続けるのが正解。

P3. 運動時間別の最適摂取量ガイド

PAPER 03
パーソナライズドスポーツ栄養への一歩:運動中の糖質摂取
Jeukendrup, A. E. (2014).
A step towards personalized sports nutrition: carbohydrate intake during exercise.
Sports Medicine, 44(Suppl 1), S25–S33.
DOI: 10.1007/s40279-014-0148-z
背景
運動時間によって最適糖質摂取量は変わる。“何時間の運動で何g/h必要か” を体系化したガイドライン。
方法
過去の同位体トレーサー・パフォーマンス研究を統合。運動時間別の糖質摂取量推奨を提示。
結果
時間別ガイドライン:
30〜75分:マウスリンスでも可(口に含むだけ)
1〜2時間:30 g/h(単一糖質OK)
2〜3時間:60 g/h(単一糖質OK)
2.5時間以上:90 g/h(マルトラCHO必須)
結論
運動時間に応じて摂取量を調整。マラソンは60〜90g/h、ハーフは30〜60g/h、ウルトラは90g/h(マルトラ)
60g/h
マラソンの推奨糖質摂取量
2時間以内のレースで
FIGURE 3
運動時間別 糖質摂取量ガイドライン
90 60 30 0 糖質摂取量 (g/h) 0〜30 30〜75分 マウスリンス可 30 1〜2時間 ハーフ向け 60 2〜3時間 マラソン 90 2.5時間〜 マルトラ必須

運動時間が長くなるほど糖質摂取量を増やす。マラソンは60g/h、ウルトラは90g/h(マルトラ)がスタンダード

🎓 理系のおじさんの翻訳解説
これがJeukendrup版”カーボ摂取の決定版表”。世界中のスポーツ栄養士が参照している。

重要なポイント:
① 60分未満は実は糖質不要:体内グリコーゲンで足りる
② 60〜75分はマウスリンス効果:口に含むだけで脳が反応してパフォーマンス向上
③ 90分超え=ハーフマラソン後半=糖質必要
④ 2時間超え=マラソン=マルトラCHO推奨

著者(ハーフ1:47→サブ90狙い)はちょうど境界域(90分前後)。30〜60g/hが目安。

注意:これは “上限” ではなく “推奨”。慣らせば90g/hまで耐性をつけることもできる。
💡 市民ランナーへの意味
レース時間別ジェル戦略:

ハーフ90分:30 g/h × 1.5h = 45g(=ジェル1〜2個)
– 30分地点と60分地点で1個ずつ

ハーフ100〜120分:30 g/h × 2h = 60g(=ジェル2個)
– 30分・60分・90分で1個ずつ

フル3時間:60 g/h × 3h = 180g(=ジェル6個)
– 30〜45分ごとに1個、計5〜6個

フル4時間:60 g/h × 4h = 240g(=ジェル8個)
– 30分ごとに1個、計7〜8個

P4. 市民マラソン実態は35g/h(推奨を大幅下回る)

PAPER 04
アイアンマン、マラソン、ハーフ、自転車レースでのエリートアスリートの栄養摂取
Pfeiffer, B., Stellingwerff, T., Hodgson, A. B., Randell, R., Pottgen, K., Res, P., & Jeukendrup, A. E. (2012).
Nutritional intakes of elite athletes during ironman, marathon, half-Ironman, and cycling races.
Medicine & Science in Sports & Exercise, 44(2), 344–351.
DOI: 10.1249/MSS.0b013e31822dc809
背景
推奨摂取量(60〜90g/h)はあるが、実際のレースでアスリートが何g/h摂っているかは不明だった。
方法
アイアンマン・マラソン・ハーフ・サイクリングの大規模実測研究(N>200)。レース前後でジェル・スポドリ・固形物の摂取量を実測。GI不快感も調査。
結果
マラソン平均CHO摂取 =35 g/h(=推奨60g/hを大幅下回る)。
アイアンマン: 47 g/h
サイクリング: 53 g/h
GI不快感:0〜4%程度(穏やか)
結論
マラソンランナーは推奨より大幅に少ない糖質しか摂っていない。”摂りすぎ”より”摂らなすぎ”が現実の問題。
35 g/h
市民マラソンランナーの実摂取量
推奨60g/hの58%に留まる
🎓 理系のおじさんの翻訳解説
この論文の発見は驚き。「ジェルでお腹を壊す」と恐れて摂らない人が大多数だが、実態は推奨量に届いていない。

35g/h = ジェルたった1.5個/時間。3時間のフルマラソンで5個も摂れていないのが市民ランナーの現実。

理由は3つと考えられる:
① ジェル不慣れ:練習で摂っていない、味が苦手
② エイドで時間ロスを嫌う:止まらないと飲めない
③ “気合いで走る” 文化:糖質補給を軽視

GI不快感の発生率が0〜4%しかないのは重要。適切なジェルを練習で慣らせば、ほとんどの人は問題ない
💡 市民ランナーへの意味
“ジェルを摂りすぎてお腹壊す”を心配する前に、”摂れていない”を疑え

30km地点で急に動かなくなる “壁” の主因は糖質不足。エイドで止まる時間ロス < ペース維持で得られる時間 が圧倒的。

特にハーフ→フル移行ランナーは要注意。ハーフでは “ジェルなし” でいけても、フルでは絶対に必要。

P5. 持久走中のGI障害は30〜70%が経験

PAPER 05
持久運動中の胃腸障害に対する栄養介入
de Oliveira, E. P., Burini, R. C., & Jeukendrup, A. (2014).
Gastrointestinal complaints during exercise: prevalence, etiology, and nutritional recommendations.
Sports Medicine, 44(Suppl 1), S79–S85.
DOI: 10.1007/s40279-014-0153-2
背景
“ジェルでお腹壊す”問題の系統的レビュー。原因と対策を整理。
方法
過去の調査研究をメタ分析。GI障害の発生率、原因、対策を整理。
結果
持久運動中のGI障害発生率:30〜70%。主因:
高浸透圧(濃いジェル一気飲み)
高脂肪・高繊維食(レース前)
脱水(腸の血流低下)
ジェル一気飲み(浸透圧急上昇)
練習不足(腸の慣らし不足)
結論
GI障害は練習で予防可能(腸の “Gut Training”)。少量分割摂取+水で希釈+低繊維食が基本対策。
30〜70%
持久運動中のGI障害発生率
ただし練習で大幅に低減可能
🎓 理系のおじさんの翻訳解説
GI障害=吐き気、お腹痛、下痢、ガス。これがレース成功率を下げる大きな要因。

重要なのは“腸も練習で鍛えられる”こと。これを“Gut Training”と呼ぶ:

① 練習でジェルを使う:ロング走20km以上で必ずジェル摂取練習
② 段階的に量を増やす:最初30g/h → 45g/h → 60g/h
③ 水と一緒に摂る:ジェルだけ一気飲みは浸透圧で胃が荒れる
④ 練習でレース食を再現:本番と同じジェル・タイミング

“レース当日に初めてのジェル”は地獄。最低でも10回は練習で試すこと。
💡 市民ランナーへの意味
練習プラン:Gut Trainingの3ヶ月

1〜2週目:10kmジョグの中盤でジェル1個を試す。胃の反応を観察
3〜4週目:15kmランで30分ごとに半分→1個。水500mlと一緒に
5〜8週目:20kmロング走で30分ごとに1個。3個摂取で慣らす
9〜12週目:本番と同じブランドで25kmロング走、4個摂取

レース1ヶ月前までに“自分の胃が許す最大量”を把握する。
⚠️ 注意 — レース直前の食事
レース2〜3時間前以降は高繊維・高脂肪食を避ける(玄米・全粒粉・揚げ物・ナッツ・繊維野菜)。腸内に残ってGI障害の原因に。白米・パン・うどん・バナナがベスト。

5本の論文から見える、ジェル戦略の科学的コンセンサス

論点 科学的結論 強度
単一糖質の上限は?60 g/h(SGLT1飽和)★★★
マルトラCHOで上限は?90 g/h(2:1比率)★★★
パフォーマンス効果は?マルトラでTT +8%★★★
マラソン推奨量は?60 g/h(2〜3時間)★★★
市民の実摂取は?35 g/h(=推奨の58%)★★
GI障害発生率は?30〜70%、ただし練習で予防可★★
マウスリンスは効く?YES、60〜75分の運動で有効★★

じゃあ、サブ90狙いランナーの最適ジェル戦略は

ハーフ90分(=ちょうどジェル必要・不要の境界)向け戦略:

▼ レース30分前(START -30min):
ジェル1個 + 水200ml + カフェイン100mg
スタート時の血糖値を上げ、序盤の燃料に

▼ 15分地点(=4〜5km):
ジェル1個 + 水100ml
“早めに” 摂るのがコツ。胃が動いているうち

▼ 45分地点(=12〜13km):
ジェル1個 + 水100ml
ここから後半戦のための燃料補給

▼ 75分地点(=20km、必要なら):
ジェル1個 or マウスリンス
残り3kmならマウスリンスで脳をだます

合計:ジェル3〜4個(=90〜120g)、=60〜80 g/h

ジェル選びのチェックリスト:
☑️ マルトデキストリン+果糖の組み合わせ(成分表確認)
☑️ 1個25〜30g(国内ジェルの標準)
☑️ カフェイン入り(レース後半用に1個は欲しい)
☑️ 味が好み(続けて飲める味であること)
☑️ 練習で10回以上試した(本番初体験はNG)

私(著者)の実戦経験:練習でジェルを試さず、ハーフ本番で初めて摂取。30km走でやってみたら口内が甘ったるくて吐き気。それ以来、ロング走の度にジェル練習を必ず入れている。
“何を摂るか”よりも、”練習で何を試したか” が本番の成功を決める。

※ 本記事は学術論文の内容を市民ランナー向けに要約・翻訳したものです。より正確な情報は各論文原著を参照してください。
※ Asker Jeukendrupは過去にPepsiCo/GSSI(Gatorade社)のグローバル栄養責任者を務めていました(現在は独立)。利益相反を考慮した上で結果を解釈してください。
※ 1型糖尿病・特定の消化器疾患のある方は、糖質摂取戦略について必ず主治医・スポーツ栄養士に相談してください。

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